山奥にひっそりとたたずむブログ

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【ネタバレ注意】映画『ハドソン川の奇跡』と震災

最近、トム=ハンクス主演の『ハドソン川の奇跡』を鑑賞したので感想をば。

 

この映画は実際の事故に基づいている。すなわち、

2009年1月9日、乗客155人を乗せた旅客機はマンハッタン上空でバードストライクにより飛行不能状態に陥る。機長のサリーは空港に帰らず、ハドソン川にて機体を不時着水させる決断をした。結果的に乗客乗員全員が無事に助かったのである。

映画の一連の流れとしては、

①事故後に主人公サリーと妻は日々マスコミに追われる暮らしをしていた。妻はサリーを擁護していたが、精神的に限界に達しており、ついに、サリーに対して、事故で何があったのか問いただすことになった。

②<サリーが妻に語る事故の描写>

③マスコミは市街地のすぐ隣で危険を冒すことはなかったのではないか、迅速に判断していれば空港に戻ることもできたのではないか、といった批判を浴びせた。国家運輸安全委員会は、シミュレーターを利用し、サリーの判断は間違っていたと追及した。この間、サリーは少年のころから農業用飛行機を操縦していたこと、空軍所属時代の事故を思い出していた。

公聴会にて、そもそもバードストライク直後に行動を開始するという想定が誤っており、バードストライク後、機長の判断の時間を設けたうえで空港へ向かうシミュレーションを行うと、墜落は免れ得ないことが証明された。

⑤<フライトレコーダーが再生されるとともに、②とは異なる視点での事故の描写>

 

②では、機体全体を映すカット(いわゆる神様の視点)、機長・副機長の顔のアップのカット、客室のカット、管制官の顔のアップのカットがほとんどを占めている。事故の描写時間はそれほど長くなく、淡々と描かれている。視聴者は「えっ終わり!?」と驚く。一方で、乗客が救助され始めたころ、わざわざ危険を承知でサリーが操縦室にいったん戻るのだが、そこで手にしたのはなんと操縦マニュアルだった。このカットは普通なら挟まない。視聴者はここに若干の違和感を持つ。

この映画の真骨頂は⑤である。バードストライク直後、サリーは副機長に操縦を任せ、その間マニュアルで事態の対処方法を探した。しかし、それが存在しないと分かった瞬間、ハドソン川への着水を決断。以後管制官からの空港へ向かうことの指示に聞く耳を持たなかった。②では一切排除されていた機長・副機長の手元の描写を焦点に絞っている。

 

サリーは航空会社や製造メーカーを信用していたし、彼らが発行するマニュアルを最大限尊重していた。沈みゆく機体からマニュアルを回収したのはその表れである。

しかし、それが有効ではないことがわかったので、自分の手腕にかかっていることを覚悟したのだ。彼は少年時代から飛行機の操縦に慣れ親しみ、また空軍所属時代の事故も、優れた操縦テクニックで大ごとにならずに済んだ。彼の飛行機操縦の信念の根底には、絶大な自信と事故の経験があったのだ。

 

東日本大震災を経験した身としては、原発事故の推移とサリーの決断を比較せずにはいられない。

両者とも、会社や機体・原発そのものを信用し、マニュアルに従って行動した。だが、原発のほうではそれを絶対視しすぎて、安全性が神話化して想定外の事態に陥っても対処することができなかった。

あれから6年経つ。我々がサリーの決断から学べることは多いように思う。